
「海外にも売りたい。とはいえ、何から手をつければいいのか分からない」
結論から申し上げます。製品カタログの翻訳から始めないでください。先に用意するのは、御社がどういう会社で、何を大事にしてきたかという物語のほうです。理由は単純で、海外の相手は御社を知らないからです。知らない会社のスペック表は、読まれる前に置かれます。
この記事は、私たちがフランスのJAPAN EXPO等のマンガ関連イベントに計11回出展してきた経験と、私(松山)がデジタルコンテンツ協会のデジタルコンテンツ白書でフランスの章を担当した際の記録から書いています。うまくいった話だけを書くつもりはありません。
1. 翻訳から始めると、たいてい止まります
いちばん多いのが、既存の会社案内とカタログを英語やフランス語に訳すところから始める形です。予算も承認されやすく、着手も早い。ただ、そのあとが続きません。
理由は3つあります。
- 訳した資料は「読んでもらえる前提」で作られています。国内なら取引先や紹介経由で読んでいただけますが、海外の展示会では、まず立ち止まっていただくところからです。
- スペックは比較されるための情報です。比較の土俵に乗った瞬間、規模の大きい会社が有利になります。
- 訳し終わった時点で予算を使い切ってしまい、2回目の打ち手が残りません。
国際化で難しいのは、最初の一歩ではありません。2回目を出せるかどうかです。
2. まず一国に絞ります。私たちの場合はフランスでした
世界に売る、と決めた瞬間に対象が広がりすぎて、どの国の何に合わせるかが決まらなくなります。私たちは20年かけてフランスに絞りました。
白書に記録した事実を挙げます。
- 2012年度、フランスでは日本のマンガや大衆文化を扱うイベントが年間58件記録されていました(白書2013・出典Nautiljon)。これは2012年度の数字であって、現在の件数ではありません。
- それまではパリ集中でしたが、クレルモン・フェランなど地方にも開催地が広がりました。大きな会場を取れない規模の会社にも、出る場所の選択肢があるということです。
- いちばん古いイベントは1994年に学生の団体が始めたものです。企業がつくった商談の場ではなく、好きな人たちが続けてきた場が土台になっています。
この3つ目が、中小企業にとっては大事なところです。30年以上続いてきた場がどういう成り立ちだったのかを知っておくと、そこに何を持っていけば噛み合うのかが見えてきます。
3. 費用は、名乗ってからでないと出てきません
予算を組もうとして最初につまずくのがここです。正直に書きます。
- ジャパンエキスポの出展料は、公式サイトに料金表が掲示されていません。
- パリマンガ(Paris Manga By TGS)も同じで、出展の相談は個別の問い合わせです。
つまり金額は、自社の条件を伝えてから返ってくる形になっています。インターネット上には金額が書かれた情報もありますが、公式を出典とするものは見つかりません。年度も区画も違う数字を稟議の根拠にすると、あとで説明が崩れます。
先に決めておくべきなのは金額ではなく、その場で自社が何の顔をして立つのかです。それが決まっていれば、見積りが出てきたときに高いか安いかを自社で判断できます。
4. 続かない理由は、すでに分かっています
白書の取材で、山陰国際観光協議会が2012年から2013年にかけてジャパンエキスポへ連続出展した事例を扱いました。そのとき記録したのは成果ではなく、続けられない側の理由のほうです。
- 1回の出展で成果が出ず、あきらめてしまう。
- 担当者が代わって、情熱が続かない。
どちらも、能力の問題ではありません。続ける仕組みが人に付いていたという問題です。担当者の熱意で走っている間はうまくいき、その人がいなくなると止まります。
私たちも人のことは言えません。11回のうち前半は、正直に書けば出ること自体が目的になっていました。
5. 前と、中と、後
いま同じご相談を受けたら、この3つを先に決めることをお勧めしています。
- 前。現地の人がその場で読めるものを用意しているか。言葉が通じなくても、絵と順序で伝わる形になっているか。
- 中。会期中、何を見せて足を止めていただくのか。渡すものではなく、その場で見ていただくものを決めているか。
- 後。終わったあと、御社の名前を思い出していただく手段があるか。名刺の交換で終わっていないか。
この3つが人ではなく仕組みに残っていれば、担当が代わっても続きます。私たちがマンガという形をとっているのは、絵と物語が、翻訳を待たずに伝わるからです。訳す前に、まず見ていただける。
6. 自社の物語は、実はもう社内にあります
物語を作る、というと新しく何かを考える話に聞こえますが、そうではありません。創業のいきさつ、うまくいかなかった時期、それをどう乗り越えたか、いま何を大事にしているか。これらは全部、すでに御社の中にあります。
ないのは、それが外から見える形になっていないことだけです。国内では紹介や実績が肩代わりしてくれていたものが、海外では効きません。だから国際化の第一歩は、新しく何かを買うことではなく、すでにあるものを外に出せる形にすることから始まります。
よくある質問
Q1. 英語とフランス語、どちらで用意すべきですか。
対象をフランスに絞るのであればフランス語が基本ですが、その前に決めるべきなのは言語より形です。文字量の多い資料は、どの言語にしても現地で読まれにくくなります。絵と順序で伝わる形にしてから、言語を決めるほうが手戻りがありません。
Q2. 出展の予算はどのくらい見ておけばよいですか。
主要なイベントは出展料金表を公開していないため、この記事では金額を書けません。区画の広さ、位置、什器の有無で総額が変わるため、個別見積りにならざるを得ません。金額を明示している情報源は、公式サイト以外である可能性が高いとお考えください。
Q3. まず視察から行くのは遠回りでしょうか。
遠回りではありません。現地の来場者が何にお金と時間を使っているのかを見てから決めたほうが、初回の設計が変わります。入場料数ユーロで一日見ていられる場もあります。
Q4. 社内に海外担当がいなくても始められますか。
始められますが、そのときこそ前・中・後を仕組みとして残してください。担当者がひとりで走る形にすると、その方の異動でそのまま止まります。白書に記録されていたのが、まさにその形でした。
最後に、ひとつだけうかがわせてください。
御社が創業してから今日までで、いちばん苦しかった時期はいつでしょうか。そして、それをどう乗り越えられたでしょうか。
その答えが、海外で最初に伝えるべき物語です。いま海外向けに使っている資料を1点お持ちください。そこに御社の物語が入っているかどうかを、一緒に読み解きます。
海外向けマンガの実際の取り組みをご覧いただけます。国際マンガの事例を見る
一国に絞って、続けられる形にする。
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